生物学的製剤とは
長く治療が困難だった関節リウマチに高い治療効果のある生物学的製剤が近年になって登場し、かなり話題になったためご存知の方も多いかもしれません。こうした生物学的製剤によって、関節の痛みや変形などの治療が可能になっています。
生物学的製剤は関節リウマチを治すために作られた薬剤で、その効果の高さから研究が進んで現在は7種類の薬が使えるようになっています。その中には、関節リウマチの原因物質である『TNF』『IL6』を抑えるタイプ、原因細胞『Tリンパ球』を抑えるタイプなどがあります。別の作用を持っているものや幅広い症状や疾患に効果が期待できるもの、妊娠・授乳中でも使用できるものなどがあり、患者様によりきめ細かく合わせた治療が可能になっています。注射で投与するため効き目が早く現れやすく、生物学的製剤の治療を開始後、早い場合には1~2週間で効果を実感できます。また、服薬による胃腸症状などを起こすこともないため、そうした意味でもお勧めできます。
生物学的製剤の治療をお勧めしたい方
痛みなどの症状が強く、できるだけ早く改善させたい
痛みや腫れなどの症状が強いケースや、超音波検査で炎症の悪化が認められるケースでは、最初から生物学的製剤と服薬を併用する治療をお勧めしています。生物学的製剤は注射で投与するため効果が早く出やすく、さらに生物学的製剤で早期に状態を改善することでその後のお薬を減らせる効果も見込めます。
リウマトレックスなどを服薬すると吐き気や倦怠感などが強く出る
吐き気止めや胃薬を併用するなどでこうした症状をある程度防ぐことができますが、飲むお薬が多くなるのも大変です。特に他の疾患がある方は、毎日何種類もの薬を飲むことになってしまいます。生物学的製剤は注射で投与するため、こうしたお悩みを解消します。
リウマトレックスなどの服薬治療で思うような効果が出ない
リウマトレックスは服薬による関節リウマチ治療では最も一般的に使われている薬剤です。ただし、これだけでは十分な効果が得られない方も多くなっています。リウマトレックスの治療を半年続けて思うような効果が得られない場合、続けてもそれ以上の効果を見込めないため生物学的製剤治療に移行することをお勧めしています。
妊娠を考えている
関節リウマチで使われるリウマトレックスなどは、妊娠・授乳中に使えないため、使用できるお薬が限られてしまいます。生物学的製剤のエンブレルとシムジアは胎盤を通過しないため、投与してもお腹の赤ちゃんに影響を与えることはありません。そのため、安心して妊娠・授乳中にも関節リウマチの治療を続けることができます。妊娠・授乳中の関節リウマチの治療を断念してしまうと、関節の変形などが起きてその後のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が大きく低下してしまう可能性があります。妊娠・授乳中もしっかり治療を続けましょう。
内臓の機能が弱っている・飲み薬が多すぎてつらい
服薬する場合、胃や腸で吸収されて肝臓が分解し、腎臓によって排出されます。そのため、服薬では胃腸の症状が現れやすい傾向があります。肝臓や腎臓にも負担がかかります。関節リウマチだけで数種類の薬を飲んでいる方も多く、さらに高血圧などの生活習慣病があると、どうしても毎日飲む薬の数が増えて、すべて飲むのはかなりの負担になり、飲み間違いも起こしやすくなります。生物学的製剤はたんぱく質でできていて、注射によって投与するため、内臓に悪影響を与えることはありません。生物学的製剤注射による治療だけで関節リウマチ薬の服薬をしないですむケースもあります。
生物学的製剤を使った治療に関するご注意
生物学的製剤は免疫に影響を与えるため、感染症リスクが上昇してしまうというデメリットがあります。これはリウマチ治療で用いる飲み薬でも起こる問題で、生物学的製剤だけの問題ではなく関節リウマチ治療を行っていく上で注意が必要なポイントです。
当院で治療に使われる主な生物学的製剤
オレンシア
T細胞という免疫細胞を抑える作用を持っています。感染症リスクが低く、注射の際の痛みも少なくなっています。飲み薬の併用をしなくても効果を得られることも多くなっています。
エタネルセプトBS・エンブレル
TNFという免疫物質を抑える作用を持っています。妊娠・授乳中にも安心して使えます。2018年6月に後発薬のエタネルセプトBSが登場したことで経済的な負担も抑えられます。効果の早さと持続、安全性に優れているとされています。
シムジア
TNFという免疫物質を抑える作用を持っています。最初の3回は2本(2倍量)を投与するため、効果の出方が早く現れやすい薬剤です。症状が強い方にもお勧めできます。
ヒュミラ
TNFという免疫物質を抑える作用を持っています。関節リウマチ以外の幅広い疾患にも効果を発揮します。相性の良い飲み薬のメトトレキサートと一緒に使われるケースが多くなっています。
シンポニー
TNFという免疫物質を抑える作用を持っています。4週毎に投与するタイプの皮下注射薬で、1回に2倍量を投与することもできます。
アクテムラ
IL-6という免疫物質を抑える作用を持っています。他の生物学的製剤と作用機序が異なるため、他の生物学的製剤で十分な効果を得られない場合にもお勧めできます。薬の価格も低めなので、経済的な負担も軽くできます。
リウマチ以外の代表的な膠原病疾患
全身性エリテマトーデス(SLE)
全身性の炎症性臓器障害を起こす疾患で、国の難病指定を受けている膠原病です。ループス腎炎をはじめ、多臓器に合併症を起こすことがあります。シクロフォスファミド(エンドキサン)の点滴や内服、プログラフ、セルセプト、ブレディニンなどの内服と、免疫抑制剤を使った治療で寛解に導きます。寛解の維持には、漢方と併用して低用量ステロイドを使うことにより、ステロイド使用量を最小限に抑える治療も可能です。全身性エリテマトーデスの治療は難病医療費などの助成対象になっていますので、お住まいの都道府県に申請して特定疾患医療受給者証を交付してもらうための手続きを行ってください。
多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)
多発性筋炎は、筋肉が炎症を起こして、力が入りにくい・疲れやすい・痛むといった症状を現します。皮膚に特徴的な紅斑を生じる場合には、皮膚筋炎となります。関節痛や間質性肺炎、悪性腫瘍などを起こすこともあります。
治療では、エンドキサンの点滴や内服、プログラフの内服などを行い、できるだけステロイドの使用を減らすことを目的に保険適用された漢方なども併用して治療を行っています。状態が改善してきたらリハビリテーションも不可欠です。また、治療経過の状態把握も重要ですので、胸部X線検査、血液検査などをしっかり行って、状態に合わせた治療をしていきます。
多発性筋炎・皮膚筋炎の治療は難病医療費などの助成対象になっていますので、お住まいの都道府県に申請して特定疾患医療受給者証を交付してもらうための手続きを行ってください。
シェーグレン症候群(SS)
涙腺や唾液腺などの外分泌腺で炎症が生じており、関節リウマチなど他の膠原病に合併することがあります。女性の発症が多く、発症に女性ホルモンが関与している可能性が指摘されています。主な症状は、ドライアイやドライマウスですが、鼻腔の乾燥、性交痛などの症状を起こすこともあります。
唾液腺や涙腺などの分泌能力や抗体を調べて診断されます。乾燥解消のための人工涙液や人工唾液、角膜保護や再生促進の点眼薬、サラジェン内服、免疫抑制剤による治療など、症状や状態に合わせた治療を行います。
シェーグレン症候群の治療は難病医療費などの助成対象になっていますので、お住まいの都道府県に申請して特定疾患医療受給者証を交付してもらうための手続きを行ってください。
全身性強皮症(SSc)
皮膚や内臓が硬化・線維化して硬くなる病気です。免疫異常や線維化、血管障害などを起こして発症することはわかっていますが、全身性強皮症の原因はわかっていません。指先が冷え、色が抜けて白くなるレイノー症状や皮膚硬化を起こすことが多く、指先などの潰瘍、皮膚の色素異常なども起こります。合併症として肺線維症や腎臓障害などを起こすこともあるので、治療中の経過をしっかり把握することが重要です。
全身を精密に検査して、状態や症状の現れ方に合わせた適切な治療法を組み合わせた治療を行います。皮膚硬化に対しては少量のステロイドを使い、血管病変がある場合はプロスタサイクリン、肺の病変にはエンドセリン受容体拮抗剤・シクロホスファミド・トラクリア・ヴォリブリス・アドシルカなどから適切なものを処方します。
全身性強皮症の治療は難病医療費などの助成対象になっています。お住まいの都道府県に申請して特定疾患医療受給者証を交付してもらうための手続きを行ってください。
混合性結合組織病(MCTD)
膠原病の代表的な疾患である全身性エリテマトーデス、多発性筋炎、全身性強皮症という3疾患の症状が混在して現れる疾患です。血液検査で抗U1-RNP抗体が高値となります。発症は女性に多く、年代では30~50歳代に多い傾向があります。主な症状には、手足の指先が冷えて白くなるレイノー現象、手指の皮膚硬化、多発関節炎、肺高血圧などがあります。重篤な合併症を起こすこともありますので、できるだけ早くリウマチ科を受診して確定診断を受け、適切な治療を受けましょう。治療はステロイドや免疫抑制剤を用いた免疫抑制療法が中心になります。
混合性結合組織病も国の難病指定を受けている膠原病で、難病医療費などの助成対象になっています。お住まいの都道府県に申請して特定疾患医療受給者証を交付してもらうための手続きを行ってください。